小林七緒のカナダからの手紙

第6回 トロント演劇事情

トロントは北米でNYに次いで演劇が盛ん、と「地球の歩き方」にあります。
ヤング通り、キング通りなどのメインストリートには劇場がたくさんあり、「ライオンキング」「美女と野獣」「キャバレー」なんかのミュージカルが上演されてます。劇場は外観は古ぼけてますが、中はえらく立派。バルコニーとかプロセがごてごてしてて、時代がかった制服の人が案内してくれます。

チケットは40〜80ドル。規模の割りには安いです。
客層は50代60代を中心とした大人ばっかり。
例外はライオンキングぐらい?
夕食をとってからゆっくり観に来るようです。
ただ水曜や土曜のマチネは、行儀の悪いお客さんも多く、観ながら感想を述べ合う、電話鳴らす、お菓子を探して荷物をがさがささせるなどヤリタイ放題だったりします。
マチネは安いので、普段来ない人も来て好きにふるまってるので。

私が観て面白いと思うような、いわゆる小劇場は
DOWNTOWNの西、バサ−スト通りに3つ有名なのがありました。
北から「Tarragon Theatre」「Theatre Passe Muraille」「Factory Theatre」でそれぞれ大・小2つのスペースを持っています。
スズナリと駅前劇場が1つになった感じ、というのが一番近いでしょうか。大は300人、小は100人ぐらいのキャパで客席をつくるのが普通みたいですが、客席も可変なので舞台の作りでかなり変わるようです。

この辺はトロント大学も近く、面白い店のある場所なので客層も若い人が結構多いです。
下北沢,渋谷のイメージです。もちろん芝居好きの大人もいっぱい来るので老若混じっていていいな、と思います。

ここで観たのは8割ぐらいの確率で面白かったです。
どちらかというと小スペースの実験的な芝居のほうが好みでした。
セットも大きな転換ができないからか工夫されていて芝居中に役者がいろいろ動かして変えていくスタイルがはやってます。
たとえば最初ソファで転がすとテーブルになり、また転がすとベットになるといった具合に。
題材は民族モノ(スコットランド・アイルランド・中国・ネイティブカナディアン)やゲイ・レズ、ドラッグといったものが多かったです。
いろんな顔の(いろんな人種の)役者がいるのでできることですね。
あと、日曜マチネに限りPay What You Canというシステムでチケット代はお客さんが自分の好きな額だけ払えばいい、というのがあります。ちょっと観てみようか、という新しいお客さんがくるのでいいシステムだと思いました。

一つ、ちょっとかわった芝居を観ました。
「The British」といって、カナダ史を時代をおって8本の作品にしているシリーズです。私がみたのは3本目のイギリスとフランスがもめてるあたりの話でした。時代に合わせたごてごて衣装で、しかも当時はやりの演劇のスタイルを使ってるんだそうです。
他の作品の時はビデオ映像も使うそうですが(隣の席のおじさんが解説してくれた)今回はわざと天井を低く人形劇の舞台のようにしてコミカルに悲劇をやってました。
歴史の本をよむのは面倒ですが、こうやって芝居でやってくれると手っ取り早くていいです。
珍しいくらいによく稽古した役者陣で動きといい、テンポといい絶妙で楽しめました。
他のシリーズも観たいなあ。

何人かステキだなと思った役者さんと知り合いになりました。
不思議とイタリア系ばかりです。
もう夏になり演劇シーズンも終わりですが、夏には彼らが組んで芝居をやるので是非観にいくつもりです。

今住んでるところは一日一本しかバスがないためトロントに行くには泊りがけで行くしかないのがつらいところです。
遠くから芝居を観にきてくださる方の気持ちが少しわかりました。


小林七緒のカナダからの手紙

第5回 フランス語に???


モントリオールに行きました。
トロントから鉄道で五時間、降りた途端にフランス語だらけで
めまいがしました。地下鉄の乗り場を探すのに一苦労。

宿に荷物を置き、早速街に出ます。
今回は6日間の予定なので、その間に見る芝居の情報を
まず手にいれなくてはなりません。
情報誌をみたら一つはフランス語で全く読めず。
もう一つはタイトルと場所しかのってなくて内容わからず。
仕方無いので自力で情報収集です。
地図をみて劇場マークの所をかたっぱしから歩きまわり、
劇場の雰囲気とポスターなど見て面白そうかどうか
あたりをつける訳です。
この日は大変暑く、気温が30度ちかくまでなったので
へろへろになりましたが、七時くらいまでかかって
15個ぐらいまわり、チケットを3枚買いました。

モントリオールは東西で英語圏フランス語圏に分かれてますが
なぜか劇場はフランス語圏に集中してます。
おかげでおしゃれなカフェでお茶したり、レポート書いたりしてる
学生らしき人々をたくさん見られました。
急に春(むしろ夏・・・)になったので、皆太陽を浴びるのに
必死です。どのカフェもテラスは満席、中はガラガラ。
私が泊まってた所はそういう店の集まってる所で夜中まで
にぎやかでした。

さて見た芝居は五本です。
三本は英語で二本はフランス語。
もちろんフランス語はわからないけど、けっこう楽しめました。
言葉がわからないから役者の動きや音楽・照明なんかから
想像するのです。特に1本は原始人の話だったので、内容
よくわかったし。(仲間うちの権力争いに火の発見がからんで
力関係が入れ替わる)

英語のほうは、最後にみた「Having Our Say」が
一番よかったです。おじいさんが奴隷だったという、102歳104歳
の姉妹の話で、2人がお父さんの誕生日のご馳走をつくりながら
この100年の一家の歴史を交互に語る芝居です。
のっけから観客に語る形で、家に遊びにいったお客さんの気持ち
でした。料理は2人が共同で本当に作りながら話が進むのですが
コンビネーションが見事で、ずっとこうやって暮らしてきた人達
という説得力がありました。

ナショナルシアタースクールの卒業公演も見ました。
「真夏の夜の夢」で前にStudio58のも見たので比較できて
よかったです。
セット・衣装は近未来SF風、なのに芝居のスタイルがわりと
オーソドックスなのが不思議でした。後半歌を多用するのに
歌があまり上手くないというのも・・・。
ただ身体の動きは見事でよく訓練されてるなあと思いました。
ちなみにStudio58バージョンは完璧に流山児組もしくは
演劇塾風で、私としてはこっちの方が好みです。熱くて。

観光も一通りしました。
旧市街はヨーロッパですね。
教会がいっぱいあってキレイです。
ダウンタウンは普通に北米の都会。
学生街が味わい深くて、歩いてる人をぼーっとみてるだけでも
楽しめます。
少し中心をはずれてユダヤ人街の方に行くといきなり生活感
あふれてて、ちっとも観光地じゃなくなるのも面白いです。
(べーグルはここのが一番おいしい)

住んでる人によると、夏のJAZZフェスの頃が一番楽しいらしい
ので、その頃また行きたいな、と思ってます。


小林七緒のカナダからの手紙

第4回 サルになった私

  

演出のジミー・テイトと(どっちがサルやら……)         出演者みんなでハイポーズ(ううううう)




アクロバットシーン
一度、試しにやったけど、すごいハードでできませんでした。


小林七緒のカナダからの手紙

第3回 前略 流山児祥様 その2


先週末からビクトリアにきています。
「Cirque Poule」というSHOWを2週間やるのです。

「Cirque Poule」は女性だけのサーカス(?)グループです。
活動ベースはバンクーバーですが、モントリオールやマサチュ―セッツ
から来てるメンバーもいます。公演のたびに集まるそうです。
メンバーのうち2人は国立サーカス学校の出身で、シルク・ド・ソレイユで
やってた人です。アクロバット担当。
ミュージシャンも2人いて主にアコーディオンを弾きます。
あとはそれぞれフィジカルシアターの人たちです。

メンバーの中に一人、日本大好きという役者がいて
狂言やら殺陣やら使いたいから手伝って、と言われたのが
そもそもの始まりでした。「サムライ」という、そのシーンは
実はちっとも日本じゃなくてインディアンが京劇の殺陣を
やっているみたいなのですが、まあいいかと振り付けを手伝ってるうちに
「いっそ出ない?」ということになりました。
リハーサル見学もちょっとあきてたので、もちろんとびつきました。

「Cirque Poule」というのはチキンのサ−カスという意味です。
私はサーカスにはつきもののサルを演ってます。
言葉で説明するのは難しいけど、身体はったギャグは通じるからいいですね。
やっぱり実際にやるほうが楽しいです。

アクロバットは真近で見ると迫力があります。
鍛えられた動きは説得力があるなあ。
あと、フランス語で歌ったり、全員でアコ−ディオンを弾いたりと
盛りだくさんなSHOWです。

劇場はビクトリアのDown Townにある、Belfry Thatreです。
キャパは300人くらい。
バルコニーがあるせいか客席が近く感じます。
ここは元教会だったところで、内装もステキですよ。

ビクトリアは桜が咲きはじめてます。
ずいぶん春らしくなりました。東京は如何ですか。

「ハイライフ」みられないのが残念です。
(ビデオとっておいて下さい!)
塾のも。

それでは、また。


小林七緒のカナダからの手紙

第2回 前略 流山児祥様


「ハイライフ」いよいよですね。
英語と日本語と両方で読みました。どんな芝居になるだろう、とワクワクしてます。

作者のリー・マクドゥガル氏も来日するそうですね。
Arts Club Theatreも彼の作品をやっているところです。
こちらは「Gingko Tree」というタイトルで田舎のガーデニングショップが舞台です。
補助金をもらうために架空の従業員を捏造してたのをごまかすため、いろいろ策を
弄するのですが、そこに常連客がさらにやっかいな問題をもちこむ、というドタバタです。
「ハイライフ」とのあまりの違いに、ほんとに同じ作者?と疑うほど。
でも、こちらもたいへん面白いです。

演出はジョン・クーパーで、この人は去年ACT版「ハイライフ」の演出をしてます。
ステージマネジャーはポーラ、その助手にバリー。
演出助手がいないので、役者とこの3人だけで作っていきます。
「どうして演出助手をつけないのですか」と聞いたら
「役者で演出もやりたいという若い人がいたら一緒にやりたい。
演出だけの人と視点がちがって面白いから。でもそういう人は
あまりいないし、予算もないからね。」
ステージマネジャーはまた女性です。女性のほうが多いかも。
セットデザイナーや道具の人は別にいるし
力仕事がそんなにあるわけでもないので、女性に向いてる仕事なのかも。
日本の舞台監督というより、演出助手に近いですね。

役者は若手からベテランまで。
主役はこれがACTデビューのナオミ。
シアタースポーツという役者が即興でやる芝居(?)で鍛えられてるので
稽古場にもってくるネタが面白いです。柔軟だし。
Studio 58を卒業したばかりの男の子もでてます。
ジョンが上手に持ち味を生かしてます。
常連客役はベテラン2人。
おじいさんとおばあさんなのに初々しいカップルで、でも最後は
おばあさんが主導権を握るという役どころ。
役者次第で面白くもつまらなくもなるのを、見ていて嬉しくなるような
すてきなカップルになってます。さすが。

初日は満員でした。
最後までトラブル続きだった仕掛けも上手くいき、安心しました。
なにしろ裏に一人しかいないから大変です。

一ヶ月くらいの公演なのに代役もつけず、スタッフもぎりぎりの小人数。
「アマデウス」の時には役者が急病になり、ステージマネジャーが
代役で出てたらしいです。
稽古期間も3週間と短いし。
全て予算の関係らしいです。やれやれ。

それにしても、リハーサルを毎日観てたのに
劇場で観ると全く知らない作品みたいにワクワクするのは何故でしょう?
自分の好きなところにくると毎回ドキドキするし。

同じ芝居を何度も(毎日でも)観にきてくださるお客さんも
きっと同じなんでしょうね。

それでは、また。


小林七緒のカナダからの手紙

第1回 流山児さん、お元気ですか。

流山児さん、お元気ですか。
1月になり、私はリハーサルを2つかけもちしています。
今日はその1つ、「Studio 58」について。

「Studio 58」はランガラ・カレッジの演劇科で、それ自体劇団でもあり、劇場でもあります。1期4ヶ月で6期で卒業ですが、1期終了毎にやめさせられる人がでるので、最後まで残るのはほんとに大変です。
授業は演技実習のほか、マスク、発声、ダンス(タップ)、映像演技などあり上級生になるほど実践です。6期生はほとんど公演の稽古と本番のみですね。プロダクションコース(スタッフ養成)の人も1年目は演技コースと一緒に授業を受けます。

今やっているのは2月1日から25日までの「HAIR」のリハです。ご存知のとおりミュージカルなので歌って踊ってで楽しいです。男も女も12,3人ずつ出ていて、全員で動くのをみるとワクワクします。(私生活までLove&Peaceになって、カップル続出なのも素敵でしょ?)

役者は4,5,6期生からオーディションで決まりました。5期でも出られない人もいるし、主役級に3人4期生が入ってます。役に合う人がいなければ最近の卒業生が出たりもします。
残りの学生は全員スタッフをやります。ステージマネージャーはプロダクションコースの上級生がつとめ、あとは手分けしてやります。男も衣装部になるし女も大道具。全部の仕事にあたるように公演毎に振り分けられ、だいたい3,4期あたりでチーフになります。

演出、振り付け、音楽、セットデザイン、照明はプロです。
演出のロバートはミュージカル畑の人なので群舞の使い方が上手。生徒たちに的確なヒントを出し、実際に動いたのを振り付けの先生が、すかさず手直ししていくので、みるみるうちに素敵になります。

やってみたくなりません? 今20歳ぐらいだったら真剣に考えるかも。
年間8000ドルかかって、しかもバイトするヒマないから、お金ないと無理ですけど。
ということは、生徒たちはみんな理解ある家庭の子なのかな。

これだけ現場で鍛えられると(しかもセレクション済み)、さすがにいい人材が育つようで、あちこちの芝居で卒業生を見かけます。
Arts Clubの新作にも1人でています。

また書きます。
次回はArts Culbの新作について。